有胞子性乳酸菌プロバイオティクスの養殖魚における斃死(へいし)抑制効果を確認

2024/12/23 その他

三菱ケミカルグループと近畿大学大学院農学研究科(奈良県奈良市)は、有胞子性乳酸菌プロバイオティクスであるHeyndrickxia coagulans SANK70258※1(以下、H・コアグランス)がマダイの粘膜バリアの強化に関わる杯細胞の数を増加させ、斃死(へいし)※2を抑制することを明らかにしました。この研究成果論文※3は2024年11月22日「Frontiers in Aquaculture」に掲載されました。
 
【本件の意義】
養殖業は、持続可能な食料生産の一翼を担い、世界中でその重要性は増してきています。しかし当産業において、感染症による斃死の制御は未だ大きな課題です。本研究成果は、本課題に対する解決策として、H・コアグランスの免疫機能の亢進の可能性を示したものです。
 
【本件のポイント】
・H・コアグランスの摂取によってマダイの生存率が向上
・H・コアグランスの摂取によってムチン※4を分泌する杯細胞の数が増加

【試験の概要】
乳酸菌は、有用微生物としてさまざまな機能を持っていることが知られていますが、H・コアグランスは、一般的な乳酸菌とは異なり、胞子を形成するため、酸や熱に強く、菌が死滅せずに腸で発芽して増殖を開始するという特性を持っています。今回は魚類において、H・コアグランスの摂取が免疫機能や生残性の向上に影響を与えるのか検討を行いました。本試験では、45日齢のマダイに対してH・コアグランスを給与させたグループ(H・コアグランス群)と、H・コアグランスを給与させていないグループ(対照群)に分け、63日間の飼育試験を行いました。その結果、試験期間中の生存率について、H・コアグランス群が対照群と比較して有意に高値を示しました。またこの変化に付随して、腸管免疫・粘膜バリア機能に関わるムチンを産生する細胞である杯細胞の数について、H・コアグランス群が対照群と比較して有意に高値を示すことも明らかになりました。これらのことから、H・コアグランスの摂取が杯細胞数を増加させた結果、免疫機能の亢進(こうしん)が誘導され、生存率を向上させる可能性が見出されました。

【本件の研究グループ員】
・三菱ケミカル株式会社 スペシャリティマテリアルズビジネスグループ
 アドバンストソリューションズ統括本部 技術戦略本部 ウェルネス技術部
 フード&ヘルスケアグループ 
 セクションリーダー 山田良一
 主席研究員 相田正典
 
・近畿大学大学院農学研究科水産学専攻
 博士前期課程2年 白樫柊児(研究当時)
・近畿大学水産研究所奄美実験場
 助教 青木隆一郎
・近畿大学農学部水産学科
 准教授 小林靖尚
 講師 谷口亮人


          H・コアグランス
 

※1ヘンドリクシア・コアグランス(Heyndrickxia coagulans SANK70258)
1949年に中山大樹博士(山梨大学名誉教授)が発見した、胞子を形成する有胞子性乳酸菌であり、長年にわたりプロバイオティクスとして使われている。胃酸で死なず、⽣きたまま腸まで届くという特性をもつ。ヒトにおいて便通改善、風邪様症状の緩和、肌状態の改善などの作用があることが報告されている。また、畜産動物の増体、抗炎症、感染症抑制に寄与することも報告されている。なお、Bacillus coagulans は2020 年にWeizmannia coagulans に、2023年にHeyndrickxia coagulans に学名が変更されており、Bacillus coagulans SANK70258、Weizmannia coagulans SANK70258はHeyndrickxia coagulans SANK70258と同一の株を指す。

※2斃死(へいし)
   感染症などにより突然死すること

※3論文情報
タイトル:Exploring spore-forming lactic acid bacterium Heyndrickxia coagulans SANK70258 as a promising probiotic for red sea bream (Pagrus major)
著者名:白樫柊児、青木隆一郎、小林靖尚、相田正典、山田良一、谷口亮人
雑誌名:Frontiers in Aquaculture
リンク先:https://www.frontiersin.org/journals/aquaculture/articles/10.3389/faquc.2024.1450537/full
※4ムチン
  消化管や気管で分泌される粘液の主成分であり、病原菌感染等から宿主を守る働きを担う



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