リスク管理
三菱ケミカルグループは、複雑さと不安定さが増していく経営環境に対応するため、リスクを「MCGグループの企業活動における目標の達成に好ましい、好ましくないまたはその両方の影響をもたらす不確かな事象(機会または脅威という形で顕在化する)」と定義し、2022年度よりERM(Enterprise Risk Management:統合的リスク管理)を導入しました。ERM導入により、ネガティブあるいはポジティブの両面から当社グループを取り巻く様々なリスクを俯瞰・可視化し、適切な対策を講じることで経営者の健全なリスクテイク、リスク対応の全社最適化を図ることにより、企業価値の最大化に資する活動を推進しています。
リスク管理体制
当社グループは、MCG執行役社長を当社グループにおけるリスク管理を統括する最高責任者とし、執行役社長と各執行役・執行役員から構成されるERM委員会を設置しています。ERM委員会では、グループのリスク管理における基本方針といった重要事項の審議や、グループ全体に大きな影響を及ぼしうる重大リスクの識別・特定、それらの管理状況のモニタリングを行っています。また、リスク管理の状況は、取締役会に報告し、その監督を受けています。グループ全体で取り組む全社横断的なリスクについては、担当する各執行役・執行役員をリスク主管役員とし、その指揮のもと、全社レベルでのリスク管理を推進します。また各組織においては、ビジネスグループやコーポレートファンクションの長がERM部門責任者となり、そのもとで実務を担うERM部門管理者およびERM部門担当者を配置して、組織レベルでのリスク管理を推進しています。

ERM推進プロセス
1.リスク特定、リスクシナリオ作成
当社グループにおけるリスク管理は、経営層が当社グループの経営に影響を与えるリスクを予め特定し、グループを挙げて全社的に取り組む全社視点リスクマネジメント活動と、各組織においてリスクを特定し、組織ごとに対応を行う組織独自視点リスクマネジメント活動を両輪とする活動になっています。
2.リスク評価
全社視点リスクについては、リスク主管役員がリスク主管部門を指揮し、具体的な事態・事象を想定した上で、その影響度と発生可能性の二軸からリスクを評価します。組織独自視点リスクについては、ERM部門管理者および担当者が各組織が自ら保有するリスクを特定・評価して対応策を検討・実行しますが、グループ全体に影響のあるものは、ERM委員会での審議を経て、全社視点リスクの活動とすることで、対応策やそのスコープに漏れが生じないようにしています。
3.MCGグループ 重大リスクの決定
ERM委員会では、全社視点リスクと組織独自視点リスクから、国際情勢や事業環境に照らして、ERM委員会として重点的に管理すべき重大なリスクを定期的に特定しています。
4.リスク対応策立案・検討/実行
リスク主管部門は、全社的に取り組むべき対応策を検討し、自ら推進するだけでなく、必要に応じて社内の各組織(子会社含む)に対して実行の要請をします。また、各組織においては、ERM部門管理者の指揮のもと、組織ごとに実施すべきアクションプランに取り組みます。
5.モニタリング
各組織で実施している全社視点リスク対応策の実施状況については、リスク主管部門がモニタリングし、必要に応じて各組織に対して追加対応策の実行を要請します。組織独自視点リスクにおいては、ERM部門管理者によりリスク対応策の実施状況がモニタリングされ、ERM部門責任者に報告されます。ERM部門責任者は、必要に応じて追加対応策の実行を要請します。
重大リスクへの取り組み
重大リスクについては、ERM委員会において対応状況の報告がなされ、リスク対応策の有効性を評価し、必要に応じて各組織に対し追加対応策の要請を出すなど、適切にリスク管理が実行されるよう努めています。
なお、2024年度は、重大リスクとして、地政学リスク、サプライチェーンリスク、情報セキュリティリスクなど7つのリスクを重大リスクとして特定し、個別事情に応じた対応策を講じ、当社の経営成績および財政状態への影響の回避・低減に取り組んでいます。
今後拡がるリスクへの対応
当社グループは、今後拡がることが予想される以下のリスクについても、中長期的な戦略を立てて取り組んでいます。
気候変動に関するリスク
化学産業はGHGを多く排出する産業である一方、その製品を通して、GHG排出量削減に貢献できる産業でもあります。製品に対する環境基準や省エネ効果を重視する顧客からのGHG排出量削減要請に沿うことができない場合には、将来の収益に影響を及ぼすリスクがあります。そのため当社グループでは、「サステナビリティ関連製品(特に気候変動・循環型経済・食料供給などに貢献する製品)の売上収益」という定量目標を掲げ、それらに貢献する製品の開発を進めています。
市場ニーズの変化によるリスク
化学を軸とする当社グループは、特に機能商品分野の製品において、品質・性能面で絶えず高度化が求められており、市場ニーズに合致した製品を適時に開発・提供する必要があります。これに加え、昨今 例えば、廃棄プラスチックの海洋等への影響から、プラスチック代替製品へのシフトなど、企業の対応が求められています。
このような市場ニーズの変化に対して、プラスチック製品の使用方法の規制動向の把握や、それに基づく顧客要求の変化を注視していますが、予想を超えて大きく変化した場合は、当社グループの競争力に悪影響を及ぼす可能性があります。
そのため、サーキュラーエコノミーを重要な戦略と位置付け、プラスチックのリサイクルや生分解性プラスチックなどのキーテクノロジーを軸に、環境負荷削減という市場ニーズに合致した製品を適時に開発・提供すべく、グリーン・トランスフォーメーションを推し進めています。
また、CLOMA、AEPWなどの国内外関連イニシアチブに参画し、プラスチック廃棄物問題の解決に対し、包括的な取り組みを実施しています。
国際情勢の変化に伴うリスク
当社グループは、製品の輸出及び現地生産等、幅広く海外に事業展開しています。
国際情勢の不安定化により、その影響が世界各地域・事業に波及するだけでなく、原燃料の価格不安定化および輸送コストの上昇などによって経済活動にも影響を及ぼしており、更にその影響が拡がる可能性があります。
また、経済安全保障をめぐる国際情勢の変化によるサプライチェーンの分断などの可能性も孕んでおり、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性のある重要度の高いリスクと捉え、全社的、横断的な対応組織を構築し、サプライチェーンの強靭化を図ります。
人材採用環境の変化によるリスク
人材確保
ミレニアル世代の台頭を始め価値観が多様化する中で、当社グループで働くことの価値を明確に提示できない場合、適切な人材を確保できず、経営戦略の実現や経営計画の進捗に遅れが生ずるリスクがあります。
採用競争力の向上とリテンションの強化に繋げるべく、タレントマネジメントの強化や、従業員に対するキャリア開発支援、成長環境の創出、職場環境の整備や採用ブランディングの強化などの施策を進め、当社グループで働くことの価値や従業員エンゲージメントを高めていきます。
DE&I(Diversity Equity & Inclusion:ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)
企業としての成長にはイノベーションが不可欠である中、その源泉となる多様性が欠如することで企業としての成長が阻害されたり、レジリエンスが低下する恐れがあります。
多様性を受け入れ、活かすための組織風土を醸成するべく、従業員に対する継続的な啓発活動や多様性を活かすための理念の浸透、属性に基づく人事管理の廃止やセグメント毎の状況に応じた施策を進めることで、多様性を維持・向上していきます。
デジタル技術に関するリスク
AIやIoTといったデジタル技術が著しく発展するなか、DXの推進やビジネスプロセス変革の遅れにより、当社グループの競争力が低下し、業績へ悪影響を及ぼすリスクがあります。
これに対応するため、デジタル戦略推進体制を継続的に強化し、新たなデジタル技術の活用やプロジェクト推進体制の拡充を通じて、ビジネス変革による生産性向上、事業競争力の維持・獲得をめざすとともに、従業員のデジタルリテラシー向上、各ビジネスグループやファンクション内でのDX化(市民開発)の推進などにも取り組んでいます。