CFOメッセージ

「攻め」と「規律」で
投資家の皆さまに結果で応える
三菱ケミカルグループ株式会社
執行役員
チーフファイナンシャルオフィサー(最高財務責任者)
木田 稔

2026年9月掲載
*本記事の内容、所属、役職等は取材当時のものです。

2026年9月掲載
*本記事の内容、所属、役職等は取材当時のものです。

2025年度業績の振り返り

2025年度の連結コア営業利益は2,250億円と、前期比で38億円の減益となりました。ケミカルズ事業のコア営業利益はわずか243億円であり、親会社の所有者に帰属する当期利益は118億円という厳しい水準で着地しています。

その大きな要因の一つは、1,949億円の非経常項目を計上したことにあります。主な内訳は、減損損失614億円、特別退職金531億円、そしてリストラクチャリングに伴う引当金の繰入592億円です。当社が定める事業選別の3つの基準である「Visionとの整合性」、「競争優位性」、「成長性」に照らして構造改革を実行し、多額の非経常項目を計上することとなりましたが、これは私たちが強い意思をもって2025年度中に大きな構造改革をやり切った結果であります。

加えて、「規律ある事業運営の3原則」に則った取り組みも着実に実行しました。2025年度においては、価格政策と資産最適化による固定費削減で、それぞれ290億円(計580億円)の収益改善効果が発現しています。これらは、次のフェーズで「攻め」に転じるための足場を固める取り組みであり、2026年度以降の伸びしろの土台となるものです。

スピード感を持った構造改革および価格政策の実行

この2年間、私たちは「事業選別の3つの基準」と「規律ある事業運営の3原則」の下、スピード感を持って事業ポートフォリオの見直しを進めてきました。将来性が見込めない事業を抱え続ければ、成長に向けた積極的な投資がしにくくなります。痛みを伴う判断は長く引きずらず、短期間に集中して決着させるべきだという強い決意を持って構造改革を断行してきました。

中期経営計画では、ケミカルズ事業において2024年度から2029年度までの6年間で、売上収益換算約4,000億円相当の資産最適化(事業整理・売却)を当初の目標に掲げていました。これに対して、わずか2年で目標を上回る約4,900億円相当の意思決定をしています。特に大きな案件は、コークス及び炭素材事業における構造改革です。子会社の関西熱化学社の売却や生産能力の大幅な削減、そして最終的には同事業からの撤退など、一昨年から、痛みを伴う、しかし当社の将来のために必要不可欠な意思決定を進めてきました。検討していた大規模な構造改革は一区切りつきますが、ケミカルズ事業を中心に引き続き生産体制や資本効率性を意識した最適化を進めていく方針です。
資産最適化
中期経営計画の4,000億円規模の事業整理・売却に対して、当初計画を上回る規模をこの2年間で実行し、来年度以降の成長へ向けた土台を整備

固定費削減にも取り組んでおり、共通部門の費用や人員に関わる費用の削減を行っています。一例として、2025年度はネクストステージ支援プログラム*を実施しました。一過性の費用約320億円を計上しましたが、2026年度以降は年間約150億円規模の労務費削減効果を見込んでいます。

また、構造改革だけでなく、価格政策にも積極的に取り組んでいます。スペシャリティマテリアルズの各事業を中心とした価格政策の推進に加え、MMA&デリバティブズ事業では、コストリンクフォーミュラの適用拡大を進め、原料価格の変動を適正に販売価格へ反映する仕組みづくりに取り組んできました。同事業の2025年度コア営業利益は市況下落により400億円規模の減益となり、コストリンクフォーミュラへの移行による増益効果を市況下落影響が上回る結果となりましたが、市況が悪化した局面でも価格が一定水準で下げ止まるように最低価格を設定できることの意義は大きいと考えています。

*固定費削減及び要員構成の適正化を図るとともに、従業員が当社グループ外においても自身の専門性や強みを活かし、新たなキャリアに挑戦する前向きな選択を行うことを支援する希望退職施策。詳細は、以下をご参照ください。

ROIC経営の高度化と規律あるキャピタルアロケーション

ネットD/Eレシオは、2025年度末の実績で0.83倍となりましたが、引き続き0.8倍以下を目安とする方針です。金利上昇局面にある中で、適度にレバレッジを利かせつつも有利子負債の水準コントロールに規律を持って今後も取り組んでいきます。

あわせて、ROIC経営の全社的な定着にも取り組んできました。2024年度から国内10事業で先行して進めてきたROIC改善活動*1により、対象10事業すべてでROICが改善されました。2025年度後半からは海外への展開も始めています。

今年度からは、ファイナンス部門内に全社横断のFP&A*2本部を新設し、各ビジネスグループが日常的に資本効率を意識した経営を進める体制を整えました。数値を扱う財務部門と、現場を知る事業部門とが一体となって事業価値を高めていく文化を定着させ、当社グループの体質を本質的に変えてまいります。

成長投資については、2025年12月18日のIR Dayにおいて明確化した事業ポートフォリオに基づき、経営資源を戦略的に配分します。2029年度までの大型成長投資案件として、次世代・成長ドライバー領域で約2,000億円、収益基盤領域で約800億円を投じる意思決定を既に行っています。
ケミカルズ事業ポートフォリオ
2025年度以降に商業運転開始予定の大型投資案件の配分

*2025年度以降商業運転開始予定の大型成長投資案件(補助金を含まない総額10億円以上の案件)



株主還元については、配当性向35%を目安とする方針に変わりはありません。加えて、1株当たり年間32円を配当の下限と位置づけており、利益の成長に応じた増配も検討していきます。

*1 価格政策によるGross Profitの改善および適正な水準での在庫管理を徹底すること等によりROICを改善・向上させるための取り組み。

*2 Financial Planning & Analysis。企業の財務計画や分析を行い、経営陣や事業部門の意思決定を財務面から支援する機能を有する。

2026年度業績予想について

2026年度は、コア営業利益3,050億円を見込んでいます。とりわけケミカルズ事業は、2025年度の243億円から1,000億円へと大きく伸ばす計画です。ただし、この利益増加の要因には、ソアノール事業や酸化エチレン・エチレングリコール類に関する減損など約355億円の一過性の損失の解消が含まれているため、実質的には約600億円から1,000億円へと成長させる計画だとご理解ください。

牽引役はスペシャリティマテリアルズで、コア営業利益1,000億円のうち900億円*をこの事業領域が創出します。半導体関連を含む情報電子事業の利益伸長に加え、ロボタクシー関連プロジェクトを展開するイタリアの子会社CPC社を有するコンポジット&シェイプス事業等で投資効果が発現し、利益成長につながることを見込んでいます。スペシャリティマテリアルズにおける利益成長により、全社のROICの改善を見込んでいます。

一方、構造改革を実行中のベーシックマテリアルズは、損失を計上する見通しです。MMA&デリバティブズは、黒字化を見込んでいますが、利益水準は十分とは言えず、抜本的な施策を引き続き進める必要があると考えています。

なお、中東情勢、とりわけホルムズ海峡の動向と原油・ナフサ価格の動向は注視しています。原料価格の上昇分は、お客さまへ適正にご負担いただく様に対応しております。

*2026年4月1日付組織再編後の数値目標

企業価値向上に対する考え

現在の当社株価水準は、割安であると感じています。PBRが低位にとどまる主因は、EPSの水準にあると考えています。PERの水準に関しては、これまでの構造改革の実行や、スペシャリティマテリアルズの成長の底堅さを背景に一定程度ご評価いただけていると感じていますが、MMAや石油化学といった構造課題を抱える事業がリスク要因として意識され、評価が抑えられている面は否めません。だからこそ、ここから先に必要なことは、結果をお示しすることだと考えています。これまで行ってきた施策、これから行う施策が収益へと確かに結実していくことを、結果で明確にお示ししていくことが、今後の計画達成の蓋然性に対する信頼にもつながると考えています。自己株式取得も選択肢として引き続き考慮してまいりますが、まずは利益を確実に高め、EPSの向上を実現することに注力してまいります。

最高財務責任者の責務

当社グループは、企業価値向上に向け、次世代・成長ドライバー領域へ積極的に資源を投じていきます。しかし、「攻め」に転じても、財務の「規律」を緩めることは決してありません。トップラインの成長を追う局面でこそ、気を抜かないことが求められます。売上が伸びるからといって、在庫が同じように、あるいはそれ以上に膨らむようなことがあってはなりません。運転資金の管理には、引き続き万全を期して取り組みます。

「規律」は、支出を抑えることだけを意味するものではありません。成長が見込めない分野には資金を使わないという判断と、商機を逃さず大胆な投資に踏み切るための備えとは、表裏一体です。どこにお金を使い、どこに使わないのかという投資案件の厳選は、ますます重要になっています。同時に、いざという時に機動的に動けるよう、平時から余計な負債を抱えず、資金調達余力を整えておくことも欠かせません。攻めと規律の両立こそ、最高財務責任者である私に課された使命だと考えています。

投資家の皆さまへ

現在の経営体制に変わり2年以上が経ちました。私たちは当初から「最初の3年」を一つの区切りと位置づけ、この期間で当社グループが確かに変わったと、ステークホルダーの皆さまに実感していただくことを目指してきました。振り返れば、最初の2年間は、大規模なリストラや事業の再編・再構築に、集中的に取り組んだ期間でした。それは将来の成長のためには、たとえどれだけ苦しくとも通らなければならない道だと覚悟を決めて進めてきたものです。最初の3年間の総仕上げとなる今年度、私たちはいよいよ「攻め」へと転じます。

まず果たすべきは、ケミカルズ事業のコア営業利益1,000億円という目標を確実に達成することです。世界情勢をめぐる懸念など不確実性はありますが、これまで固めてきた土台の上に、目に見える成果を積み上げてまいります。私たちの目指す成長と収益向上への道筋を皆さまにご理解いただけるよう、結果でお応えする一年にする覚悟です。今後とも変わらぬご支援を賜りますよう、お願い申し上げます。

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