食品業界の課題解決へ。
食の未来を支える選択肢『シュガーエステル―食品用乳化剤』
2026.01.29
/ TEXT BY MCG
※本記事の内容、所属・役職等は取材当時のものです。
三菱ケミカルが注力事業領域の一つとして取り組んでいる「食の品質保持」。おいしさを長く保つことで、食の流通や加工を支える。その挑戦の一端を担うのが乳化剤『リョートー™シュガーエステル』です。フードロス削減や健康への貢献、環境負荷軽減といった複合的な課題に対して、どのような価値を提供しているのか、3名の担当者の声から紐解きます。

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■メンバー(左から順に) ※敬称略
山田 真由アドバンストソリューションズビジネスグループ
ライフソリューションズ本部 フード・ヘルスケア事業部 フードビジネスグループ 営業1チーム
鳥居 久義アドバンストソリューションズビジネスグループ
ライフソリューションズ本部 フード・ヘルスケア事業部 ヘルスケアビジネスグループ長
來山 祥子アドバンストソリューションズビジネスグループ
技術戦略本部 ウェルネス技術部 フード&ヘルスケアグループ
私たちが届けるのは、食のソリューション
『リョートー™ シュガーエステル』は、ショ糖と植物油脂由来の脂肪酸を主原料とした乳化剤です。水分と油分を均一に混合させる機能を有し、食品の加工や流通保管時の品質維持に役立ち、飲料(缶コーヒーなど)、乳製品(ホイップクリームなど)、菓子(ケーキやチョコレートなど)といった幅広い分野で使用されています。
鳥居:
『リョートー™ シュガーエステル』は、当社が提供する乳化剤ラインナップの一つで、長い歴史をもつ事業です。現在の主な販売先は日本、中国、東南アジアなどで、今後の注力地域は米国を見据えています。日本の加工食品は非常に水準が高く、その一端を担っているシュガーエステルの価値を、各地域のニーズを捉えて世界に広めることが、私たちの使命だと考えています。
私たちは、各銘柄の特性を自社内で深く把握し、特性とメリットをお客様へ伝える「ソリューション営業」を展開してきました。これまで事業は順調に伸長し、現在は海外展開などにより、さらにジャンプアップを図る時期に来ています。
アドバンストソリューションズビジネスグループ フード・ヘルスケア事業部 ヘルスケアビジネスグループ長 鳥居 久義。医薬、化粧品、サプリ、工業、農畜産領域を担当
山田: 営業の立場では、実際の実験現場を見学したり、開発や研究部門と日々コミュニケーションを重ねたりすることで、各銘柄の特性について理解を深めつつ、その知見を活かし、お客様との情報交換や提案を行っています。このような取り組みを繰り返していった結果、私自身、営業を始めた頃よりお客様から悩みを相談され、より良い提案を求められる機会も増えてきました。課題解決の候補として三菱ケミカルを思い浮かべていただけていると感じて、営業として非常に励みになっています。
アドバンストソリューションズビジネスグループ フード・ヘルスケア事業部 フードビジネスグループ 営業1チーム 山田 真由。営業担当。主に菓子メーカー様に『リョートー™ シュガーエステル』を提案
來山: 営業担当者が研究所まで直接足を運んで情報共有してくれることに加えて、営業の週次レポートも共有され、開発現場にもお客様の声や課題はしっかりと届いています。これらを踏まえて、「この課題には、こういったものが使えるかもしれない」と議論をすることも少なくありません。
総合化学メーカーだから実現したシュガーエステルの製造
「ソリューション営業」で成長を続けてきた乳化剤事業。その源流であり、事業の核となるシュガーエステルの製造は、世界でもごく限られたメーカーにしか実現できません。そこには、三菱ケミカルが総合化学メーカーとして長年培ってきた独自の技術がありました。
鳥居: シュガーエステルは、広義では食品添加物という括りで、加工食品の表示では「乳化剤」と表記されます。油由来の乳化剤は、添加した食品に対して風味の影響が大きい、あるいは、機能の幅が狭いといった課題があります。一方、シュガーエステルは砂糖の主成分であるショ糖に植物由来の脂肪酸を結合させたもの。風味に脂っこさがなく、加工食品に添加しても味への影響も少ない。さらに、機能面の幅が広く、用途に応じてさまざまな種類のシュガーエステルを展開できる強みがあります。

來山: 他の乳化剤と比べて機能面の幅が広いのは、親水基に違いがあるからです。乳化剤とは、水と油を均一に混ぜ合わせて安定させる食品添加物。マッチ棒のような形をしており、マッチ棒の頭の部分が「親水基(水と馴染みやすい部分)」、軸木の部分が「親油基(油と馴染みやすい部分)」です。この2つを併せ持つことで、油と水を混ぜ合わせやすくする性質を持ちます。
高い親水性を持たせれば飲料用途に、高い親油性を持たせれば、チョコレートのように油分の多い製品にも使用可能です。さらに配合を変えれば、同じ製品に使っても得られる効果が変わります。例えば、パンに使うシュガーエステルの配合を変えれば、しっとり仕上げにも、ふっくら・ふわふわ仕上げにも調整できます。こうした使い分けや併用により、応用の可能性が大きく広がるのがおもしろいところです。
アドバンストソリューションズビジネスグループ 技術戦略本部 ウェルネス技術部 フード&ヘルスケアグループ 來山 祥子。シュガーエステルの研究開発などを担当
鳥居: 三菱ケミカルの強みは、総合化学メーカーとして培ってきた多様な製造技術にあります。この技術なしではシュガーエステルの生産は難しく、世界でも製造できるメーカーは数社に限られ、三菱ケミカルがトップシェアを確立しています。
一方で、シュガーエステルの需要は伸長。特に、新興国の経済成長と共に中間層が増え、嗜好品である飲料やチョコレートの消費が増加しています。また、米国では提案不足や限定した用途にしか使用基準が設定されていなかったこともあり、乳化剤としてシュガーエステルがあまり使われていませんでしたが、米国販売体制を整え、用途拡大の法対応を進めることで、今後の需要伸長が見込まれます。それらの需要に応えるために、2024年3月に三菱ケミカル九州事業所の製造設備を増強。2026年3月にも新ラインを追加する予定で、合計すると年間製造量を3,000トン以上増やしていきます。
食の課題解決に貢献するシュガーエステル
三菱ケミカルは、フードロス削減、健康増進、環境負荷軽減という重大な社会課題の解決を使命としています。シュガーエステルは、B2Bから生活者が得られる最終的な便益や満足感 までを視野に入れた多角的なソリューションを提供し、食だけでなく、人と社会、そして地球の心地よさが続く状態であるKAITEKIの実現に貢献しています。
鳥居: 乳化剤の展開において、特に注力しているのがフードロスの削減。日本国内でのフードロスは年間約464万トンと推計されており、そのうち「事業系」と「家庭系」が半々を占めています。我々はB2Bビジネスを手掛けているので、事業系のフードロス削減に貢献できると考えており、加えて、環境負荷軽減や健康への貢献なども視野に入れています。
山田: お客様からは、社会課題の解決に対するソリューションを求められることも増えています。乳化剤を使った業務効率の改善や食品の長期保存は、事業系のフードロス削減に貢献できることをお伝えしています。
來山: 開発においても、フードロス削減につながる技術は積極的に取り組んでいます。加えて、エンドユーザーの健康増進につながる技術も開発を進めています。
山田: 私は菓子メーカーを担当していますが、フードロスの削減ではシュガーエステルの「消泡効果」が役立っています。例えば、キャンディーの製造工程では、煮詰める際に泡が生じるのですが、そのままだと食感が変わるので泡の入った製品は廃棄になることがあります。そこで、消泡効果を高める処方で作られたシュガーエステルを投入。キャンディー液と空気の界面に乳化剤が並ぶことで表面張力を低下させ、泡を沈静化させます。泡による廃棄が少なくなり、フードロス削減につながります。
一般的に泡を抑えたいときは油を投入しますが、油を加えると内容物が変わるので、キャンディーのレシピも味も変わってしまいます。しかし、シュガーエステルならば味やレシピに影響を与えません。そこがお客様に受け入れられているポイントです。キャンディー以外にも、ジャムや最近流行っているグミを煮詰めるとき、また、飲料をボトリングするとき、発酵食品の製造時にも泡は発生します。お客様の製品に合わせて、より良いソリューションをご提案しています。

來山: 健康への貢献に対しては、「発酵乳風味改良剤」の開発を進めているところです。ヨーグルトなどの発酵乳製品は、乳酸菌が生きた状態で流通しますが、糖を代謝して乳酸が生成されるため、時間とともに発酵が進み、酸味が強くなったり、乳酸菌が死滅したりする過発酵により賞味期限を短くせざるを得ないという問題があります。
現在、ヨーグルトの賞味期限は、国内製品で概ね3週間程度です。特に、健康に効果のある特殊な乳酸菌は、デリケートで死滅しやすい。日本では流通網が発達しているため問題になりにくいですが、中国のような広い国や東南アジアのように海上輸送や航空輸送が多い地域では、品質維持が難しい。この課題を解決して賞味期限を延ばすことができれば、より多くの人にヨーグルトを届けられて健康への貢献やフードロスの削減につながります。
そこで着目したのが、乳化剤であるシュガーエステルが副次的に持つ「静菌作用」です。ヨーグルトに添加することで、過発酵を抑制して乳酸菌を死滅させずに数を維持できる。そんなシュガーエステルを有効成分とした製剤である「発酵乳風味改良剤」の開発に取り組んでいます。

ただ、粉状のシュガーエステルは製造工程への導入が難しいため、「高濃度液体シュガーエステル製剤」の開発にも取り組んでいます。濃度を高めるのは困難ですが、実用化できればヨーグルトだけでなく、これまで導入が難しかった製品にも展開可能になります。
鳥居: 環境負荷軽減に関しては、食品包装紙に多く使われるフッ素(PFAS)の代替として、シュガーエステルを用いた耐水・耐油性コーティング液を開発しています。PFASは人体や環境汚染が懸念されており、欧米を中心に規制が加速。この世界的脱PFASの流れを受け、PFASの代替として開発研究に着手しました。
シュガーエステルは水にも油にも馴染みやすい一方で、配合によってはどちらも馴染まない性質を持たせることができます。この特性を生かして、耐水・耐油性をもつシュガーエステルを主成分とした乳液状のコート剤「シュガーエステル水分散液」の開発を進めており、この分散液を食品包装紙に塗布することで、耐水・耐油の被膜を形成します。
この「シュガーエステル水分散液」を当事業部単独ではなく、食品容器包装市場を知り、コーティング素材の販路を持つ三菱ケミカルのグループ会社と連携して展開する計画です。すでに、フッ素メーカー大手2社が、2026年末までの製造終了を宣言しています。そういった意味では、今後1〜2年が勝負になると見ています。

シュガーエステルが切り拓く未来
シュガーエステルは、変化する時代のニーズに応え、その用途を広げています。三菱ケミカルの技術力を背景に、製造現場の利便性向上、海外展開の加速を通じて、フードロス削減や環境負荷軽減を含むあらゆる意味でのKAITEKIを、世界で実現していきます。
山田: 今、世界的なカカオ不足により、カカオ油脂の代わりにパーム油、ひまわり油などの植物油脂を使用した「準チョコレート」と呼ばれる製品が増えています。カカオ油脂が植物油脂に変わったことで品質や製造工程に課題が生じても、シュガーエステルを上手く使うことで解決できる可能性があります。これからも時代の変化とともに、一定の原材料が高騰したり入手しづらくなったりすることはあるはず。お客様が直面するその時々の課題に合わせて、最適な提案を続けていきます。
鳥居: 包装紙だけでなく、野菜や果実など、出来上がった製品そのものをコーティングして鮮度を保つ研究開発も進めています。食品添加物という言葉で敬遠されがちですが、使用する主原料はショ糖と植物油脂由来の脂肪酸で、米国、欧州、日本等の複数の国の公的機関において評価され安全性に問題ないと判断されています。
三菱ケミカルが培ってきた各種製造技術を組み合わせ、人の口に入れても安心・安全な根拠を担保できる点、また加工食品に不可欠な機能を付与できる点は非常に有用だと自負しています。
來山: 先ほど話した「高濃度液体シュガーエステル製剤」によって、粉状のシュガーエステルを混入する設備がないお客様でも手軽に使えるようにしていきたい。それにより、これまで届いていなかったお客様にもリーチを広げたいと考えています。今後も研究を重ね、お客様の要望に一つひとつ対応していくことで、食品メーカーの皆さまにとってより使いやすいシュガーエステルを提供し、その結果、消費者の方々には、より美味しく、より健康増進につながる商品を手にしてもらいたい。その上で、フードロスの削減、環境負荷軽減を実現していきます。
山田: 事業全体では、海外への展開を加速させることが目標です。海外菓子メーカーへのリーチはもちろんですが、国内菓子メーカーの海外輸出や現地生産でもお手伝いができます。例えば、私たちのシュガーエステルの銘柄は多岐に渡るので、各国で設定された規格および使用基準を満たしつつバラエティーに富んだ特性を持つシュガーエステルをご提案することが可能。イスラム教のハラールやユダヤ教のコーシャなどの認証を取っている銘柄もあります。今後はさらに、国内メーカーの海外展開を支援するとともに、乳化剤そのものも海外のユーザーへ広げていきたいと考えています。
鳥居: シュガーエステルは50年以上の歴史があり、日本国内の加工食品メーカー各社に多様なソリューションを提供してきました。この蓄積されたノウハウを海外展開に生かし、世界に広げたい。当社は、シュガーエステルにとどまらず、乳酸菌や酵素など多様な素材を取り扱っています。フード分野では加工食品を中心に、また、ヘルスケア分野では医薬品、サプリメント、農畜産物など幅広い業界にソリューションを提供しています。こうした多彩な選択肢を活かし、お客様の課題に合わせた最適な提案を行えることが、私たちの強みです。フードロス削減やおいしさ・安全の提供にとどまらず、環境負荷の低減にもつなげ、あらゆる意味でのKAITEKIの実現をめざします。

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