変化に挑む三菱ケミカルグループ。経営ビジョンに込めた思いと挑戦

変化に挑む三菱ケミカルグループ。
経営ビジョンに込めた思いと挑戦

2025.03.13
 / Business Insider Japan掲載記事
※本記事の内容、所属・役職等は取材当時のものです。

事業環境の激しい変化や社会課題解決の重要性に直面している三菱ケミカルグループ。自らの変化の必要性を強く感じるなか発表したのが、「KAITEKI Vision 35」と「新中期経営計画2029」だ。
現場の声を吸い上げた実効性のあるものにするために、筑本社長のもとに、さまざまなバックグラウンドを持つ人材が集まったという。
中心となって取り組んだのは、経営戦略部戦略立案グループの4人。KAITEKI Vision 35に込められた思い、そして、これからの取り組みを策定メンバーに聞いた。

10年後の未来を見据えた新たなビジョン「KAITEKI Vision 35」

2024年11月、三菱ケミカルグループ(以下、MCG)は、「KAITEKI Vision 35(以下、KV35)」と、それを実現するための「新中期経営計画2029(以下、新中計2029)」を発表した。

KV35は2050年からバックキャストし、2035年のありたい姿を描いた経営ビジョンだ。MCGグループのパーパスである「人、社会、そして地球の心地よさが続いていくKAITEKIの実現」のもと、重要な社会課題を踏まえ、「グリーン・ケミカルの安定供給基盤」、「環境配慮型モビリティ」、「データ処理と通信の高度化」、「食の品質保持」、「新しい治療に求められる技術や機器」の5つを注力事業領域に設定している。

5つの注力事業領域

新中計2029は、2025〜2029年度までの5年間を対象としており、KV35の実現に向けた中間目標およびその達成の具体的アクションプランとして策定された。

これらの策定に関わったのが、経営戦略部 戦略立案グループに所属する室田知昭氏、隄雄亮氏、水池健太郎氏、藤井琳子氏の4名だ。部長の室田氏は「最終的に発表内容をまとめたチームはこの4人ですが、そのプロセスでは筑本社長をはじめとしたマネジメント、各部門のメンバーや社外の有識者など、さまざまな方とのやり取りを経て作り上げました」と説明し、こう続けた。

室田知昭(むろた・ともあき)氏/三菱ケミカルグループ ストラテジー所管 経営戦略部長。2000年に入社後、各種化学品の原料~中間材~加工に至る複数の事業部門や国・地域における企画職・営業職・事業責任職を経て、2024年4月から現職。
室田知昭(むろた・ともあき)氏/三菱ケミカルグループ ストラテジー所管 経営戦略部長。2000年に入社後、各種化学品の原料~中間材~加工に至る複数の事業部門や国・地域における企画職・営業職・事業責任職を経て、2024年4月から現職。

「このチームの特徴は、4人のバックグラウンドが多様なこと。隄さん以外は経営戦略の策定に携わるのが初めてでしたが、会社全体の10年先を描くプロセスだったので、同じような経歴の人間だけが集まって視野や検討がサイロ化してしまわないようにすることが重要でした。そうした意識もあり、役職や立場にとらわれることなく、素直な意見交換を大切にしました」(室田氏)

MCGがKV35の前身であるKAITEKI Vision 30(以下、KV30)を発表したのは2020年2月。この5年で世界や社会を取り巻く環境が激変したことは論じるまでもないだろう。特に化学産業は、カーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーなど大きな課題に直面している。

水池健太郎(みずいけ・けんたろう)氏/三菱ケミカルグループ ストラテジー所管 経営戦略部 戦略立案グループ。半導体およびイメージング事業の事業戦略・海外マーケティング・M&A(買収・PMI)経験を経て、サステナビリティ所管でLCA(Life Cycle Assessment)基盤構築を中心とした全社プロジェクトならびに社外連携を推進。2024年4月から現職。
水池健太郎(みずいけ・けんたろう)氏/三菱ケミカルグループ ストラテジー所管 経営戦略部 戦略立案グループ。半導体およびイメージング事業の事業戦略・海外マーケティング・M&A(買収・PMI)経験を経て、サステナビリティ所管でLCA(Life Cycle Assessment)基盤構築を中心とした全社プロジェクトならびに社外連携を推進。2024年4月から現職。

「KV30の方向性は正しかったのですが、変化の加速度が想定以上でした。この変化のなかでは、全てをやりきることは難しい。MCGグループが今持っている強みやアセットをどのように選択して集中させれば、社会に貢献しつつ、会社として成長できるのか。その観点から考えたのがKV35です」(水池氏)

目指すのは、「社会課題に最適なソリューションを提供し続け、素材の力で顧客を感動させるグリーン・スペシャリティ企業」だ。

室田氏は「お客さまから求められるスピードも速くなり、かつ、ニーズは高度化、複雑化しています。それでも、数多くの事業の買収や統合をグローバルレベルで行ってきたMCGグループがもつ、幅広く蓄積された技術や商材、知見があれば、それに応えられるはず」と力を込める。一方で、それだけのポテンシャルがありながら、2023年度の業績が落ち込んだことには、悔しさを感じていたという。

「ここ数年、外部環境の変化が激しいなかで、足元の環境も厳しくなりました。その結果、従業員と経営陣の気持ちが少し離れてしまった部分も感じています」と率直に語るのは隄氏だ。「KV35には、改めて求心力を高め、経営と従業員が一体化して事業に取り組むという目的もあります」と続けた。

社会課題を解決して利益も上げる

KV35はその数字が示す通り、2035年を見据えた経営ビジョンだ。ビジョンではあるが、夢やあるべき姿を語るだけではない。

「素材の会社として社会課題を解決することを第一に、同時に社会課題解決を通じてしっかりと利益を上げる。KV35では、この2つを同時に追求しています」と室田氏。その言葉を受け、藤井氏は次のように話した。

素材の会社として社会課題を解決することを第一に、同時に社会課題解決を通じてしっかりと利益を上げる。KV35では、この2つを同時に追求しています

「まず、我々の現状から離れて、社会の変化とそれによる未来の社会課題について、産業、業界を絞ることなく、広い視点で議論を行いました。その上で、MCGグループが解決できる社会課題を特定したアプローチが、バックキャストです。一方で、私たちの強みを活かし収益性を高める分野を特定したアプローチが、フォアキャストです。この両方が合致し、社会課題を解決することで持続的に収益を上げられるかという観点で、KV35を策定しました」(藤井氏)

KV35は新中計2029と同時並行で策定が進められた。特に新中計2029の検討では、各部が持つ課題感など現場の声と徹底的に向き合い、丁寧に議論を重ねた。水池氏は、その苦労をこのように述懐する。

「未来を語ると、どうしてもボヤッとした部分が生まれてしまいます。KV35と新中計2029ではそうならないために、各部に現実的な数字を積み上げてもらいました。フォアキャスト、バックキャストで導かれた2035年のありたい姿を踏まえて、その実現に向けた事業戦略と現実的な利益の見通しを話し合いました。私も事業部にいたので分かりますが、かなり労力が必要な作業だったはずです。そのお陰で、中長期的な視点を持ちつつ、地に足が付いた戦略になった自負があります」(水池氏)

2035年の事業ポートフォリオとコア営業利益イメージ

MCGグループの強みを最大化して新しい価値を生み出す「つなぐ」力

MCGグループは2035年、どのような会社になるべきなのか。KV35の策定過程では、パーパスであるKAITEKIの実現と収益性を両立させたビジョンをどう実現していくのか、そのための組織・プロセス・リソースについて社内外で議論が交わされた。

そして、1つのキーワードにたどり着いたという。それが「つなぐ」だ。隄氏は、そこに込めた思いをこう語る。

隄雄亮(つつみ・ゆうすけ)氏/三菱ケミカルグループ ストラテジー所管 経営戦略部 戦略立案グループ長。田辺製薬入社後医薬品開発を担当ののち三菱ケミカルホールディングス(現三菱ケミカルグループ)経営企画室へ出向し、前身となるKV30作成を経験。その後データ活用を中心としたDXの推進担当を経て2024年4月から現職。
隄雄亮(つつみ・ゆうすけ)氏/三菱ケミカルグループ ストラテジー所管 経営戦略部 戦略立案グループ長。田辺製薬入社後医薬品開発を担当ののち三菱ケミカルホールディングス(現三菱ケミカルグループ)経営企画室へ出向し、前身となるKV30作成を経験。その後データ活用を中心としたDXの推進担当を経て2024年4月から現職。

「MCGグループの強みは何か。そして、その強みをどうソリューションとして提供できるのか。初期段階からさまざまな方々と議論を重ね、考え続けてきました。特に社外の皆さまから言ってもらえたのが、高い専門性をもった技術が多岐に渡っていること。一方で、これからの社会に求められることは、より複雑化する顧客課題を解決することです。そこで、MCGグループの持つ個々の技術を”つなぐ”ことで、今以上に高い価値を生み出せると考えました」(隄氏)

こうして生まれた「つなぐ」というキーワードをより深掘りし、KV35では「社会・顧客と会社をつなぐ」、「ニーズと社内外の技術をつなぐ」、「アイデアと製造をつなぐ」、「アイデアと外部パートナーをつなぐ」を掲げている。より速く顧客課題を解決するため、社会のニーズと最適なソリューションを徹底的に「つなぐ」という。

実行の組織・プロセス・リソースの全体像

「これまでは、R&Dが生み出すイノベーションとニーズを“つなぐ”部分が弱かったと感じています。今後は、お客さまや市場を今まで以上にしっかりと見ることで、私たちの技術とお客さまの要望を“つなぐ”ことが重要です。そのためには、部門ごとに独立するのではなく、全社目線で保有している技術や蓄積してきた知見、開発能力を“つなぐ”ことが求められます。KV35と新中計2029をきっかけとして、全社的に“つなぐ”を支える仕組みを作っていきたいと考えています」(隄氏)

この“つなぐ”を具体に落とし込むための実行策は、既に始まっている、と室田氏は言う。

「2025年4月から新しく“つなぐ推進部”を創設し、発足します。前例のない部署ですので苦労もあるかもしれませんが、社会への価値提供のために“つなぐ”を推進して個々の力を結集させることに挑戦し続けていきます」(室田氏)

経営戦略部戦略立案グループに配属される前は、入社以来一貫して樹脂製品の営業に携わっていた藤井氏。「当時所属していた部署は、製品の強みを活かしてさまざまな業界に食い込み、精一杯戦っていました」としながらも、KV35の策定で全社目線を持つようになったことで、強く感じたことがあったという。

藤井琳子(ふじい・りんこ)氏/三菱ケミカルグループ ストラテジー所管 経営戦略部 戦略立案グループ。2016年三菱化学株式会社入社以来、日本ポリプロ株式会社(出向)にて、ポリプロピレンの営業・マーケティング・ドイツ駐在の経験を経て、2024年4月から現職。
藤井琳子(ふじい・りんこ)氏/三菱ケミカルグループ ストラテジー所管 経営戦略部 戦略立案グループ。2016年三菱化学株式会社入社以来、日本ポリプロ株式会社(出向)にて、ポリプロピレンの営業・マーケティング・ドイツ駐在の経験を経て、2024年4月から現職。

「MCGグループにはさまざまな事業があり、多岐に渡る技術を保有しています。そして、なにより6万6000人に及ぶ人材がいます。本当にさまざまな強みや知識をもった人材がいて、自分たちの部署で抱えている課題も、別の部署のスペシャリストに聞けば解決できることもある。ただ、私は事業部にいたとき、自分から別領域に飛び込んで、世界を広げることをしていませんでした。一人でできること、持つ知識には限界があります。しかし、人と人がつながれば、課題を解決し新たな価値を生み出すこともできるはず。KV35をきっかけに従業員の視野が広がれば、より力強い会社になれるはずです」(藤井氏)

KV35と新中計2029は2024年11月に発表されたが、これはスタートであってゴールではない。策定に携わった4人は、すでに次の目標である従業員一人ひとりの「つなぐ」実践の浸透と定着に向けて動き始めている。

藤井氏は、「従業員全員がKV35と新中計2029をかみ砕いて、明日の仕事に活かしていく。そういった行動変容を起こせなければ発表して終わりになってしまいます」と意気込む。

「KV35、新中計2029という全社の経営戦略を一人ひとりの仕事に落とし込んでもらえるように、各現場でディスカッションする場を設けてもらっています。それをきっかけに、従業員同士が自らのネットワークで自分事としてつながり合い、個々の力の結集体として社会課題解決を実践していく。目指す姿は、そういう会社です」(室田氏)

 

これからの5年、10年で若手、中堅の力を発揮していきたい

水池氏は「従業員同士が議論し行動が変われば、僕らが次に考えるべき新しい問いが生まれ、KV35はより進化をしていくと思っています」と意欲を見せる。藤井氏は「KV35には正解が詰められている訳でなく、あくまで正解を見つけるきっかけです」と語り、こう続けた。

「お客さまにいいものを提供し、ありがとうと言ってもらえる。そして、社会課題の解決へとつながる。そうやって何十年、何百年と続く企業になるため、まずは新中計2029とKV35の目標であるこの5年、10年で若手、中堅の力を発揮していきたいと思います」(藤井氏)

最後に室田氏は、「KV35、新中計2029の策定は、MCGグループが何の会社であり、どこに向かうのかを問い続けるプロセスでした」と振り返った。その答えの1つが、前半でも述べた「社会課題に最適なソリューションを提供し続け、素材の力で顧客を感動させるグリーン・スペシャリティ企業」だ。

社会が複雑化し、変化のスピードが増す今、その実現には「つなぐ」が欠かせない。1人の知見ではなく皆の知見、MCGグループに数多ある技術の組み合わせ、自社だけでなく他社との共創、こうした「つなぐ」をさまざまな場面で実践することによって、MCGグループは未来に向けて新しい挑戦へと踏み出している。

三菱ケミカルグループの「KAITEKI Vision 35」と「新中期経営計画2029」についてはこちら
経営方針|三菱ケミカルグループ

 

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