APACにおけるフードセキュリティの強化に向けて―包装材が果たす役割

APACにおけるフードセキュリティの強化に向けて
―包装材が果たす役割

2026.05.20
 / TEXT BY MCG
※本記事の内容、所属・役職等は取材当時のものです。

この1年、アジアでは自然災害が相次ぎ、危機発生時におけるフードサプライチェーンの脆弱性が改めて浮き彫りになりました。
こうした課題に対し、食品包装はどのような役割を果たし得るのか。三菱ケミカル(タイ)でアジア太平洋地域(APAC)のマーケティングを統括する小峰敬太さんに、現状認識と今後の方向性について話を聞きました。

フードサプライチェーンの課題

災害が発生した際に、安全で栄養のある食料を確保できるかどうかは、人々の命や暮らしを守るうえで欠かせない要素です。相次ぐ災害を経て、APAC地域ではフードセキュリティへの関心が一層高まっています。

フードセキュリティを考えるうえで、実は非常に重要でありながら、これまで十分に意識されてこなかったのが食品包装です。災害によって物流が止まり、社会インフラが大きな影響を受け、地域が孤立するような状況では、食品の保存性や輸送性、賞味期限の延長が極めて重要になります。食品の品質保持に貢献し、より長期間にわたって保存・流通・消費を可能にする食品包装材の役割が、改めて注目されています。

小峰 敬太/Mitsubishi Chemical (Thailand) Co., Ltd. ダイアミロン事業部長 兼 APAC RHQ マーケティング統括

小峰 敬太/Mitsubishi Chemical (Thailand) Co., Ltd. ダイアミロン事業部長 兼 APAC RHQ マーケティング統括

フードセキュリティの鍵を握る「食品包装」

私たちにとって食品包装は、単なる包装材ではありません。社会が危機に直面したときにも、食の安定確保を支えるレジリエンスを高めるための重要なソリューションだと捉えています。食品の鮮度保持、フードロスの削減、輸送・保管時の安全性確保――こうした一つひとつの積み重ねが、フードセキュリティの向上につながっていくと考えています。

三菱ケミカルグループには、食の品質保持を支える多様な機能や素材群があり、ニーズや用途に応じた材料設計が可能です。特に、優れたガスバリア性を持つ材料は、食品の品質保持に貢献し、より長期間にわたって安全な流通と消費を可能にします。これは日常の食品流通に限らず、災害時の非常食や救援食料においても重要な役割を果たしています。

APAC市場の現状認識

日本とAPACを比べると、食品包装の技術や基準には、市場の成熟度や事業環境の違いが表れていると感じます。日本では、過去の自然災害の経験を背景に、流通条件や使用環境が変わっても安定した性能を発揮できる包装技術が発展してきました。

一方で、APACの多くの国や地域では、これまで食品包装は、必要最低限の機能を満たすことや価格、汎用性が重視されてきた側面があります。ただこれは、見方を変えれば、今後の成長余地が大きいということでもあります。

こうしたギャップを埋めていくことは、私たちの重要な役割の一つです。三菱ケミカルが各市場で培ってきた技術や知見の共有、現地パートナーとの協業、そして各地域の実情に即したイノベーションの推進を通じて、包装材をより高付加価値で、レジリエンスと性能を兼ね備えたソリューションへと進化させ、ASEANをはじめとする新興市場全体での食品包装の水準向上に貢献していきたいと考えています。また、こうした取り組みは、食品の安全性や品質を高めるだけでなく、地域の食品産業の長期的な発展を支えることにもつながると考えています。

有事にも機能する包装へ —性能の向上

近年、自然災害がより頻発し、深刻化する中で、APACではフードシステムにおけるレジリエンスがますます重要な要件となっています。その中で包装材料は、平時だけでなく有事においても機能する、フードシステムの基盤の一つだと考えています。非常食の保存や輸送を可能にし、品質や安全性を維持することで、結果としてライフラインを支える役割を果たしてきました。

私たちが考えるレジリエンスとは、物流の遅延や供給の変動といった想定外の事態が起きた際にも、食品が一定の品質と安全性を保ったまま流通・消費される状態を維持できることです。そのためには、保存性の向上、物理的な強度といった、食品流通を支える基本性能の積み重ねが欠かせません。

三菱ケミカルは、こうした視点から食品包装の役割を捉え、その機能を継続的に高めていくことを重視しています。フィルム材料の常温保存性能や物理的強度を向上させることで、食品が予期せぬ環境変化にも耐えうる状態を維持できるよう取り組んでいます。これらの機能自体は当社独自のものではありませんが、性能の継続的な向上を重ねていくことが、不確実性の高い環境下においても、地域社会やコミュニティを支える力となり、フードシステム全体のレジリエンスにつながっていくと考えています。

多様な市場ニーズと高まる環境要請

APACの市場動向を見ていると、新たな顧客ニーズがより明確になってきていると感じます。文化や宗教、食習慣が多様なこの地域では、画一的な包装ではなく、用途や市場ごとの要件に応じた高度にカスタマイズされた包装ソリューションへの需要が高まっています。

同時に、地球環境問題への関心が高まる中で、顧客の期待も変化してきています。リサイクル性や環境配慮は、もはや選択肢ではありません。この点は、APACにおいても同様です。現在は、性能や安全性に加えて、サステナビリティとのバランスが取れた包装が求められるようになっています。

重要なのは、資源循環がフードセキュリティと切り離して考えられるものではないという点です。プラスチック包装は環境課題を伴う一方で、食品を保存するためには欠かせない存在でもあります。だからこそ私たちは、必要な性能を維持しながら、いかにリサイクル性を組み込んでいくかという課題に向き合っています。包装材の開発においては、食品の安全性や賞味期限を確保しつつ、サーキュラーエコノミーの実現に貢献できるソリューションの提供を目指しています。

APACの食品包装の未来に向けて

私たちの包装ソリューションはすでに、APAC地域において多くの食品企業にご採用いただき、協業も進んでいます。APACにおける食品包装の未来を形作る上で、私たちは、より重要な役割を担っていきたいと考えています。気候リスクの高まりや人口増加により、フードシステム全体への負荷が増す中で、求められる解決策は、食品産業全体の生産性向上と、包装材のリサイクル性の改善にあります。長年培ってきたバリア技術や、用途や市場ごとのニーズに応じ設計可能なフィルム性能を強みとして、食品産業の発展を支え、安全で持続可能な食料供給の確保に貢献していきたいと考えています。

食品包装におけるイノベーションが事業成長にとどまらず、APACにおける、より強靭で持続可能な社会の実現につながっていく——そのビジョンを、着実に形にし、KAITEKIの実現に貢献していきたいと思います。

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