ポリプロピレンが描く循環のストーリー。『ノバオルビス™』が拓くモビリティの新たな可能性

ポリプロピレンが描く循環のストーリー
『ノバオルビス™』が拓くモビリティの新たな可能性

2026.03.26
 / TEXT BY MCG
※本記事の内容、所属・役職等は取材当時のものです。

自動車業界は大きな転換期を迎えています。欧州では、2025年12月に使用済み自動車(ELV:End-of-Life Vehicles)の廃棄やリサイクルに関するELV管理規則が暫定合意され、世界的にもリサイクル材の活用が強く求められています。なかでも、自動車に使用されるプラスチックの約35〜45%を占めるポリプロピレン(以下PP)のリサイクルは重要なピースです。今回は、PPの循環を市場・仕組み・LCAの3つの側面から携わるメンバーに、循環型社会への道筋を聞きました。

メンバー
■メンバー(左から順に) ※敬称略
荒武 伸仁三菱ケミカル株式会社
サステナビリティ・渉外本部 サステナビリティ・ソリューション部
飛鳥 一雄日本ポリプロ株式会社
企画管理部 企画グループ
小宮 櫻子三菱ケミカル株式会社
ベーシックマテリアルズ&ポリマーズ ビジネスグループ 戦略企画本部 CN・CE戦略部

本格化する自動車のリサイクル

飛鳥: 欧州のELV規則の中で私たちが注視しているのが、再生プラスチックの利用率です。新車のプラスチックに再生材を段階的に導入することが義務化され、施行後6年で15%、10年で25%が目標とされています。当面はマテリアルリサイクル(粉砕・溶融など物理的処理により原料へ戻すリサイクル)が中心ですが、ケミカルリサイクル(化学的な分解工程等によって油、モノマーなど化学原料へ戻すリサイクル)やバイオの取り扱いについても、欧州議会での議論を引き続き注視する必要があります。

日本ポリプロ株式会社 企画管理部 企画グループ 飛鳥 一雄

日本ポリプロ株式会社 企画管理部 企画グループ 飛鳥 一雄

欧州の動きを受け、日本でもプラスチックリサイクルへの対応が加速しています。日本の自動車メーカーは欧州向けの輸出台数も多く、ELV規則への準拠は避けられません。自動車工業会も中長期的な目標(2035年までに15%)を掲げ、国としても、環境省主導で産官学のコンソーシアムを立ち上げました。日本ポリプロも三菱ケミカルとともに、このコンソーシアムにオブザーバーとして参加し、最新動向の把握に努めています。

プラスチックリサイクルの中でも特に注目されているのが、私たちが扱うPPです。 PPは自動車に使用される最も一般的なプラスチック素材で、バンパー、インストルメントパネル、ドアトリムなどに使用され、自動車に使用されるプラスチック全体の35%~45%を占めています。他の樹脂と比較してマテリアルリサイクルが容易であることも特徴で、自動車メーカーも、プラスチックメーカーに対してマテリアルリサイクルPPの開発・製造を促しています。

自動車部材に求められる基準は厳しく、マテリアルリサイクルPPも例外ではありません。物性はもちろん、車内環境の面から臭いの除去や化学物質の管理が不可欠です。

自動車部品に使用される高品質マテリアルリサイクルPPは、必ずしも単一の廃棄プラスチック由来のリサイクル材のみを原料として製造されているわけではありません。そもそも、回収された廃棄プラスチックは様々な種類が混在しています。異物や臭い、含有化学物質といった点で、自動車部材に求められる水準を満たすには技術的な工夫が必要です。

日本ポリプロが自動車向けに求められる品質をクリアできるのは、2つの技術があるからです。ひとつは、バージン材(新品)のPPとマテリアルリサイクルPPを混ぜ合わせる工程で、硬さや柔らかさ、耐衝撃性といった物性を整える技術。もうひとつは、マテリアルリサイクルPPに含まれる異物や臭いを低減するための処理技術です。加えて、単に自動車向けにマテリアルリサイクルPPを提供して終わりではなく、部材の形状に応じた成形条件をアドバイスするといった伴走型の支援も私たちの強みとなっています。

具体的な製造の流れ(下図参照)は、供給された原料を用い、日本ポリプロがマテリアルリサイクルPPとの混合に適したバージン材のPPを製造します。このバージン材にパートナーであるプラスチックリサイクル企業が廃棄プラスチックから製造したマテリアルリサイクルPPを混合し、日本ポリプロにて物性調整や、異物・臭気の除去を行うことで、高品質マテリアルリサイクルPPが完成します。ELV規則では「新車に使用するプラスチックの25%をリサイクル材に置き換える」とされていますが、この要件でも当社のリサイクルPPの貢献が見込めます。

具体的な製造の流れ

環境負荷低減に向けたPPブランド『ノバオルビス™』

高品質マテリアルリサイクルPPの開発を起点に立ち上げたのが、環境負荷低減PPブランド『NOVAORBIS™(ノバオルビス™)』です。

飛鳥: 三菱ケミカルグループの一員として日本ポリプロは、サーキュラーエコノミーやカーボンニュートラルを重要な経営戦略として位置づけています。そこで、その具体施策として、同グループの日本ポリエチレンとともに『ノバオルビス™』を立ち上げました。2025年にマテリアルリサイクルPP『ノバオルビス™-MR』に加えて、『ノバオルビス™-CR』『ノバオルビス™-BP』を販売し、次なる展開として、後述の「カーボンリサイクルPP」の市場投入を予定しています。

『ノバオルビス™-MR』は、自動車分野を中心に展開しており、バンパー向け、インストルメントパネル向けなど、用途に応じた複数のラインナップを展開しています。従来の再生材は価格が安い一方で品質面に課題がありましたが、『ノバオルビス™-MR』は、バージン材と同等レベルの品質で、お客様に安心かつ安全にお使いいただけます。

すでに、KGモーターズ社が手がける小型モビリティロボット(一人乗り小型BEV)『mibot』の内装部材に採用いただきました。採用は内装部材であるドアトリム内の取っ手部分と限定的ではあるものの、車両製造において環境負荷を最小限に抑えたいというお客様の期待に応え、高品質マテリアルリサイクルPPの社会実装に向けた確かな一歩を踏み出せたと思っています。

KGモーターズ社が手がける小型モビリティロボット(一人乗り小型BEV)『mibot』

『mibot』のプレスリリース後には、取引先から「ここまで品質が高いマテリアルリサイクルPPが製品化されているとは」といった声も寄せられ、すでに引き合いもいただいています。大手自動車メーカーへの本格採用には5年スパンの時間軸で考える必要がありますが、現在は、長期的な採用に向けたサンプルワークを積極的に進めているところです。

ELV規則を受け、マテリアルリサイクルPPは自動車分野での期待が大きい一方で、欧州では容器包装分野でも再生材利用が求められつつあります。自動車用途で蓄積した知見を、将来的には容器包装へも水平展開していく考えです。

リサイクル材の信頼性向上に向けた取り組み

マテリアルリサイクルPPの品質安定化を目的に、リサイクル原料の履歴を追跡できるトレーサビリティシステムの実証検討が進められています。

荒武: 欧州では「DPP(デジタルプロダクトパスポート)」の導入検討が進んでおり、製品のライフサイクル情報をデジタルデータとして開示することが求められつつあります。マテリアルリサイクルPPの再生材原料が「消費者から回収されたものなのか」、それとも、「生産工程から出た端材なのか」などをトレーサビリティで証明していく仕組みが、ますます重要になってくるでしょう。

三菱ケミカル株式会社 サステナビリティ・渉外本部 サステナビリティ・ソリューション部 荒武 伸仁

三菱ケミカル株式会社 サステナビリティ・渉外本部 サステナビリティ・ソリューション部 荒武 伸仁

そこで私たちが取り組んでいるのが、「マテリアルリサイクルPPの品質安定化を目的としたトレーサビリティシステムの実証検討」です。リサイクル企業である中部日本プラスチック、日本ポリプロ、三菱ケミカルが共同で進めているプロジェクトで、クラウド上のプラットフォームを利用して原料から出荷までのデータを一元管理します。

具体的に入力する情報は、家電由来、容器包装由来など廃棄プラスチックの由来、使用した廃棄プラスチックの保存状況、融解温度や時間などの加工条件、出荷情報など。入荷から出荷までの一連の流れをシステムに入力することで、管理と追跡が可能となり、マテリアルリサイクルPPの製造プロセスを可視化することで、品質管理の精度向上につながりますし、お客様に対しては、製品に使用されているリサイクル材の由来や品質情報を明確に提示することで、安心と信頼を提供します。一方で、どの項目を記録すべきかの選定は難しく、必要なデータをリスト化しながら、収集負荷とのバランスを慎重に見極めています。

将来的には、『ノバオルビス™-MR』に使われる廃棄プラスチックも追跡可能にし、ブランド価値を高めていきます。最終的なゴールは、一般消費者への開示。農産物の生産者をQRコードで読み取れるように、マテリアルリサイクルPPについても透明性と信頼性を担保していくことがゴールです。

また、欧州で導入が進むDPPへの対応も視野に入れています。国際標準との互換性を保ちながら自社のトレーサビリティシステムからデータをアウトプットし、DPPにつないでいく予定です。日本でも経済産業省の「Ouranos Ecosystem(企業や業界、国境をまたぐ横断的なデータ連携・システム連携の実現を目指す取り組み)」や「CMP(化学物質・資源循環プラットフォーム)」といった公的なデータ連携プラットフォームの動きへの対応を並行して検討しています。

 

『ノバオルビス™』が実現する4つの未来

小宮: 『ノバオルビス™-MR』は日本ポリプロ主体の取り組みであり、三菱ケミカルはあくまで通常のバージン原料供給者の立場です。しかし、ケミカルリサイクルPPの『ノバオルビス™-CR』、バイオPPの『ノバオルビス™-BP』、カーボンリサイクルPPの『ノバオルビス™-CU』については、単なる原料供給者・使用者という関係ではなく、マーケティングや販売方法も含めた事業スキーム検討の段階から、三菱ケミカルと日本ポリプロで連携して進めています。

『ノバオルビス™』

三菱ケミカルのリサイクル事業では、廃棄プラスチックを熱などで分解して原油に近い状態に戻し、新品同等のナフサを製造。そのナフサからPPの原料であるプロピレンを製造し、日本ポリプロに提供しています。わかりやすくチョコレートに例えると、板チョコを溶かして固め直すのがマテリアルリサイクル。砂糖やカカオマスのような原料まで戻すのがケミカルリサイクルです。ケミカルリサイクルは原料レベルまで戻すので、バージン材と同等の品質が得られる点、マテリアルリサイクルでは対応が難しい廃棄プラスチックも原料として活用できる点が特徴です。2025年7月には、三菱ケミカル茨城事業所内に国内最大規模の処理能力(年間2万トン)をもつケミカルリサイクルプラントが竣工し、そこで製造されるプロピレンを原料に、2025年度に『ノバオルビス™-CR』の販売を開始しています。

三菱ケミカルのリサイクル事業では、廃棄プラスチックを熱などで分解して原油に近い状態に戻し、新品同等のナフサを製造。そのナフサからPPの原料であるプロピレンを製造し、日本ポリプロに提供しています。

次に、バイオPPは、植物等のバイオマスに由来するPPです。大気中のCO2を吸収したバイオマスをプラスチックの原料として使用しており、2025年度には日本ポリプロから『ノバオルビス™-BP』として発売されています。三菱ケミカルは日本ポリプロと協力し、バイオマス原料の使用拡大に向けた検討を進めています。

カーボンリサイクル、つまり炭素のリサイクルという観点では、CO2からのPP製造について事業検討を進めています。現在、UAEのアブダビで推進しているプロジェクトでは、再生可能エネルギー由来の電力で水からグリーン水素を作り、CO2と合成してメタノールを生成します。このメタノールをプロピレンに変換し、そのプロピレンを原料にPPを製造します。マテリアルリサイクルでもケミカルリサイクルでも対応が難しい廃棄プラスチックは、現状では最終的に焼却されていますが、将来的には焼却時に発生するCO2を回収して、炭素としてリサイクルし資源循環させることも可能と考えています。

この技術について展示会などで「本当に実現できるのか」と驚かれることが多いものの、技術的には商業規模のプラントでの運転・製造も可能であり、アブダビでの事業検討を進めています。また、日本ではJFEスチールや三菱ガス化学と連携し、製鉄プロセスから発生する副生ガス中のCO2を有効活用して化学品を製造するというプロジェクトを進めており、岡山の水島コンビナートで小規模な実証を行います。2030年頃にはこうしたカーボンリサイクルを事業化し、『ノバオルビス™-CU』としての販売を目指しています。

三菱ケミカル株式会社 ベーシックマテリアルズ&ポリマーズ ビジネスグループ 戦略企画本部 CN・CE戦略部 小宮 櫻子

三菱ケミカル株式会社 ベーシックマテリアルズ&ポリマーズ ビジネスグループ 戦略企画本部 CN・CE戦略部 小宮 櫻子

飛鳥: 環境負荷低減PPとして4種類の製品ラインナップを打ち出せるのは、グローバルに見ても私たち三菱ケミカルグループだけではないかと自負しています。自動車分野では、高品質なマテリアルリサイクルPPへのニーズは確実に高まっており、一方で、数量や品質の確保に課題を感じている企業も少なくありません。ハイスペックな部材ではマテリアルリサイクルだけでは対応しきれない場面もあるため、今後、ケミカルリサイクル(CR)を含め複数の選択肢を用意できることは、お客様の中長期的な期待にもつながっています。

また、どのリサイクル材、バイオ材をどのように組み合わせて使っていくかは、お客様も規制動向を見ながら模索している段階。外部環境がどう変化しても最適なソリューションを提供できる体制を整えておくことが重要だと考えています。

 

循環型PPの実装に向けた連携と仕組みづくり

荒武: 現状、トレーサビリティはサプライチェーン全体でまだつながっていない状態。将来的には、上流から下流まで環境価値に関するデータを一気通貫で連携できる仕組みを構築することが目標です。データを示すことで、「ノバオルビス™」が環境に貢献できることを証明し、会社として自信をもって環境配慮型の製品を世に送り出せるように支援し、社会全体での循環を後押ししていきたいと考えています。

小宮: 私の部署のミッションは、持続可能な原料から作られる素材を供給することです。石油由来のナフサではなく、廃棄プラスチック、バイオマス、CO2を原料として製品を作る。その実現に向けたプロジェクトを立ち上げ、推進するのが私の役割です。技術的には実現可能な領域ですが、重要なのは、経済的に成立する仕組みの構築です。お客様や消費者が何を求めているのかを踏まえ、どういう座組みやスキームのプロジェクトを立ち上げれば製品が売れるのかを考えぬく必要があります。売れることは、事業としての持続可能性そのものだからです。環境への配慮を大前提として、経済的にも持続可能でなければ会社として事業を続けられません。グループ各社、パートナー企業、お客様と連携しながら、循環型社会の実現に向けて、事業としても持続可能な原料への切り替えを進めていきます。

飛鳥: お客様やパートナー企業の皆様、サプライチェーン一体となって密にコミュニケーションを取りながら、この黎明期にある循環型PPのマーケットをしっかりと作り上げていきたいと考えています。そのためには、原料サイドの三菱ケミカルとの連携は特に重要です。三菱ケミカルグループは経営方針「KAITEKI Vision35」で「つなぐ」をキーワードとして掲げていますが、循環型社会の実現は、一社だけの力で成し遂げられるものではありません。まずはMCCグループ内での連携を強化し、さらにリサイクル企業とのパートナーシップ、お客様との協働、さまざまなプレイヤーとのつながりの中で、私たちは「ノバオルビス™」を通じて、モビリティの未来を支えていきたいと考えています。

 

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