三菱ケミカルグループ株式会社

KAITEKI Solution Center
次世代ガス供給システム~先端技術の活用でスマートな工場を実現~

次世代ガス供給システム
~先端技術の活用でスマートな工場を実現~

Feb. 1, 2023 / TEXT BY YUYA OYAMADA / ILLUSTRAIONS BY SHINJI HAMANA
※ Dec. 1, 2021 の記事を更新しました。

今や私たちの暮らしに欠かせないものとなった半導体。その製造過程には特殊材料ガスなど、さまざまな種類の産業ガスが使用されています。しかし、従来の半導体工場では1本あたり100キロを超えるガス容器(ボンベ)の交換作業が日に何度も生じ、作業者の大きな負担となってきました。

また、半導体工場など高圧ガスを扱う現場では法定上、日常的な保守・点検が欠かせず、人手不足に悩む製造現場にとって膨大な手間と時間を要することも課題でした。

  • そこで三菱ケミカルグループ(MCGグループ)の大陽日酸では、次世代ガス供給システム「インテリジェント・ガス・サプライングシステム(IGSS)」を開発。ガス業界にデジタル革新を実現することで、ガス供給現場のスマートファクトリー化を支援するシステムを提供しています。
次世代ガス供給システムイメージ写真

同社がIGSSの開発に着手したのは2017年。デジタル技術を活用した製造業の省力化・省人化をめざす第4次産業革命の波を受けた「スマートファクトリー」という概念に、日本でも注目が集まりつつあった時期でした。

スマートファクトリーとは、AIやIoTといった最新テクノロジーを製造現場のあらゆるところに取り入れることで、業務プロセスの改革や品質・生産性の向上を継続的に実現する工場と定義されています。

では、このスマートファクトリー化が、IGSS開発の契機となった半導体工場にどうして必要とされているのか?背景には、ガス供給現場における多くの課題があります。

実は、半導体工場は製造にまつわるほとんどの作業が自動化・無人化されており、その意味ではスマートファクトリー化はすでに進行していました。しかし、ボンベの交換や保守、点検といったハンドリング業務は人の手によって行わなければならないといった実情がありました。加えて、こうした製造現場には人材不足という問題もあります。

長年、産業ガスの供給メーカーとして、半導体をはじめとするエレクトロニクス関連の工場とパートナー関係を築いてきた大陽日酸は、顧客が抱えるこうした課題の解決に対して、スマートファクトリー化というデジタル革新によって応えようとしたのです。

コンセプトは、「KAITEKIなガス設備を提供することで、お客様の業務をよりKAITEKIにする」。ロボットやAI、センサー、クラウドサービスなど最新技術を駆使することで、ガス供給にまつわるあらゆる業務をオートメーション化することを開発目標として掲げました。

同時に、このプロジェクトではデジタル技術の急速な進歩に合わせたスピード感のある取り組みも求められました。大陽日酸の担当者たちはガスの取り扱いに関してはプロフェッショナルであるものの、IoTやAIといったテクノロジーに関する知見は、ほぼゼロ。そこで同社では、専門技術を有する企業とのオープンイノベーションを推進するとともに、短い期間で試作と検証を繰り返しながらプロジェクトを進める「アジャイル開発」の手法を採用します。

当初から要件定義を明確にし、完成に向かうプロセスをひとつひとつ進めていく従来型の開発手法と違い、アジャイル開発は“作りながら完成形を模索する手法”といえます。計画から設計、実装、検証に至るサイクルを短期間で繰り返し、試作品をいくつも作りながら必要な機能などを定めていくもので、短期間で製品の質を向上させることができるとされています。

ただ、試作と検証の精度を上げるためには、最終的に製品を使用するお客様と常に連携しながらプロジェクトに取り組まなければなりません。そのコミュニケーションが緊密でなければ、ムダに試作を繰り返すことになり、コストと時間のロスが増え、アジャイル開発のメリットを活かすことができないためです。

その点、長年にわたってお客様の工場の隣に事務所(ガスセンター)を構え、ガス供給にまつわる周辺業務も担ってきた大陽日酸は、アジャイル開発の特徴を最大限に発揮することができました。これまで培ってきたお客様との信頼関係をベースに、開発の現状や課題をタイムリーに報告・共有することで、共にプロジェクトに取り組む“パートナー”として、最終的なユーザーの声を反映した細かな調整や改善を行っていくことができたのです。

こうして完成したIGSSは、次の7つの機能がラインナップされました。

  • IGSS #01 Ceyes シーアイズ 日本点検の支援システム。IoTを活用してガス設備の運転データをクラウドへ自動転送し、データベース化。入力された点検データは顧客書式の記録簿に出力することも。従来は何時間も要していた作業を短縮する
  • IGSS #02 LUMsystem ルームシステム ガス容器のラベル情報を読み取り、電子情報として管理するデータベース。ガスの消費状況を予測するAIも搭載し、品種によって異なるガスの発注タイミングを解析することで、在庫切れを未然に防ぐことができる
  • IGSS #03 UnacsⅡ tab シリンダーキャビネットの稼働状況の確認が遠隔で可能に。1台のタブレットで最大200台のシリンダーキャビネットを操作・監視でき、容器交換に伴う長時間作業のストレスを大幅に軽減する
  • IGSS #04 Crecorder シーレコーダー シリンダーキャビネットの内部に広角カメラを装備し、常時録画を行う。容器交換、異常発生、メンテナンス作業などのイベント動画を自動格納。不具合発生時の要因解析に役立ち、ヒューマンエラーの抑止にも
  • IGSS #05 TELEOSi 工場内のセンシングデバイスを統合管理し、ガス供給状態、異常通報、トレンド記録を集約しモニタリングするIGSSの基幹システム。構内どこからでもタブレットで遠隔操作が可能で、 直感的に扱うことができる
  • IGSS #06 Cdrive シードライブ ガス容器を自動運搬するロボットシステム。ロボットは空間を検知してマップを作成し、自身の位置を自動で認識しながら指定された場所にガス容器を運ぶ。また、シリンダーキャビネット※への搬入・搬出も行うことができる ※ガス容器をシリンダーキャビネットと呼ばれる箱状の装置に収納してガスを供給する
  • IGSS #07 SEQUM セクム ガス関連設備の保全管理と、増え続ける通信トラフィックの常時監視を担う補助システム。IGSSでつながっているガス供給設備、機器の台帳管理、交換部品の在庫可視化や交換時期目安の通知も可能。またIGSSを使う上で必要なネットワーク・通信の状態を監視する。

それぞれ高度なテクノロジーが凝縮され、 ガス供給現場における課題をデジタル技術で解決する支援システムとなっています。また、これら7つのサービスは顧客の状況に合わせて個別に導入することも可能です。

また、IGSSはガス供給にまつわるビジネスモデルの変革にも寄与すると期待されています。近年、IoTの発展により製造業のサービス業化が進んでいるように、IGSSが普及すれば、ガスを提供するだけでなく、ガスにまつわるさまざまな業務の効率化支援も新たな事業として成立させることができるからです。
そして、日常点検の省力化システムなどの機能は、ガス供給ビジネスだけでなく、幅広い分野にも応用可能なテクノロジーでもあります。特にMCGグループには多様な事業群があることから、大陽日酸では広く活用のアイデアを募っていきたいといいます。

しかし、IGSSはこれで“完成”したわけではありません。自動運転のクルマが技術の進歩に合わせて、自動化のレベルを徐々に上げていくように、IGSSの自動化もあくまで現時点でのもの。IGSSは常に最新技術を取り入れ、ガス供給における自動化レベルの向上と、理想的なスマートファクトリーの実現に向けたアップデートを継続して行っていきます。

従来、人が介在する作業の多かったガス業界から始まったデジタル革新。それが近い将来、スマートファクトリーという未来の工場を実現させるかもしれない。IGSSは、そんな夢に向けた第一歩なのです。

大陽日酸の次世代ガス供給支援システム IGSSのサイト

トップページへ戻る