三菱ケミカルグループ株式会社

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炭素繊維複合材料~軽くて丈夫な素材で資源効率の良い未来を~

炭素繊維複合材料
~軽くて丈夫な素材で資源効率の良い未来を~

Feb. 1, 2023 / TEXT BY YUYA OYAMADA / ILLUSTRAIONS BY SHINJI HAMANA
※ Sep. 21, 2021 の記事を更新しました。

  • 三菱ケミカルグループ(MCGグループ)では、2種類の炭素繊維を製造してきました。アクリルニトリルを原料としたPAN系炭素繊維と、石炭を精製する際に発生するコールタールを原料とするPitch系炭素繊維です。
炭素繊維複合材料イメージ写真

MCGグループには炭素繊維の原料から炭素繊維そのもの、中間材、CFRPまで自社で製造・販売しているところに強みがあり、材料設計、成形・加工技術など、炭素繊維に関する多種多様なノウハウと提案力を培ってきました。自動車、航空・宇宙、スポーツ・レジャー用品など、多種多様な用途やニーズに対応した炭素繊維とCFRPを提供しています。

従来の自動車には鉄やアルミなど金属部品が多く使われています。しかし、燃費規制やGHG排出規制の強化を背景に、自動車業界では車体の軽量化が大きな課題の一つともなってきました。

また、カーボンニュートラルの実現に向け、ガソリン車から電気自動車へのシフトが加速する中、重いバッテリーを搭載する電気自動車が走行距離を延ばすには、ガソリン車以上に車体の軽量化が必須とされています。

そこでカギを握るのがCFRPです。従来の材料をCFRPに置き換えることによって強度を保ちながら車体の軽量化が可能となります。炭素繊維協会による過去のモデル検討では、CFRPを17%適用すると30%の車体軽量化につながり(従来材料比)、車体軽量化によって10年間で1台あたり約5tのCO2削減効果があると報告されています。

しかしながら、モビリティ分野への普及には課題もありました。従来の材料に比べて部材生産に時間がかかり、製造コストも高いことから、スポーツカーなど高級車での利用が主となっていたのです。

そこでMCGグループでは、培ってきた部材の設計ノウハウを活かし、中量~大量生産に対応できるCFRPの開発に取り組んできました。その一つが炭素繊維シート成形コンパウンド(CF-SMC)です。

CF-SMCとは、カットした炭素繊維に熱硬化樹脂を含浸させたシート状の中間材料で、プレス成形による量産が可能なところに特徴があります。オートクレーブ(圧力釜)やオーブンを使った従来の成型方法に比べ、短時間で自動車部材に加工できるようになりました。オートクレーブ成形なら2時間かかるところを、なんと2~5分程度まで短縮したのです。

  • オートクレーブ成形
  • プレス成形

これにより部材をハイサイクルで量産することが可能となりました。コストを抑えても素材としてのパフォーマンスの高さは維持され、アルミと同程度の曲げ剛性(素材の曲がりにくさ)で比較した場合、約30%の軽量化も達成しました。

また、CF-SMCは繊維の短い炭素繊維を使っていることから、設計の自由度も高く、複雑な形状の成形に対応できることも特徴としています。

すでにモビリティ分野でのCF-SMCの採用は進んでおり、日産「GTR」のディフューザー、レクサス「LC500」のドア・ラゲッジのインナー、トヨタ「プリウスPHV」のバックドアインナーのほか、最近でもトヨタ「GR ヤリス」のルーフなどに使われています。

今後、車体軽量化のニーズはさらに高まっていくと予想され、CFRPは需要増加が見込まれています。一方、自動運転車や空飛ぶ車など次世代モビリティの分野では、従来の思想にとらわれない新たなコンセプトによる車体設計が進むでしょう。

そうした新たなモビリティの実現に貢献するためにも、顧客ニーズの迅速な汲み取りが、よりいっそう重要となります。MCGグループでは、素材を開発して提供する川上から川中までのビジネスから、エンドユーザーである自動車メーカーに近い川下のところに入り込んだビジネスへと変革すべく、サプライチェーンの強化に取り組んでいます。

2017年には、CFRPの自動車部品を手がけるイタリアのC.P.C.SRLに出資を行いました。同社が持つ設計・シミュレーション技術を活用した部品・車両の軽量化ノウハウや成形技術力、開発提案力、欧米自動車メーカーへのネットワークなどを活用することで、技術革新の著しいモビリティ分野に対して最適なソリューションをタイムリーに提供する体制を構築しています。

また、C.P.C社にCF-SMCの製造設備を新設することで、CFRP 製品に対する需要拡大にも対応していきます。中間材料についても、2020年にドイツの炭素繊維プリプレグメーカーであるc-m-p GmbHを買収し、CFRPの生産体制の強化をグローバルに進めています。

そして、競争力を維持していくには、サステナビリティにも配慮したサプライチェーンの確立も不可欠です。そのため、日本の新菱(しんりょう)社やドイツのMitsubishi Chemical Advanced Materials GmbHのcarboNXT™など、グループ会社において炭素繊維のリサイクル事業にも力を入れています。

carboNXT™では、航空機や電気自動車の部品、風力発電のブレードから出たCFRP廃棄物やEOL部品(生産中止部品)を、100%マテリアルリサイクルすることが可能です。熱分解処理により、リサイクル炭素繊維を得ることができます。MCGグループは、このリサイクルされた炭素繊維をバージン材と同等の性能を持つCFRPとして提供するために技術開発を続けています。また、バージン繊維を製造する際のエネルギー消費を抑えることができるため、省資源にも貢献します。MCGグループでは、炭素繊維の原料からリサイクルまで一貫したビジネスモデルを展開し、サーキュラーエコノミーの実現をめざします。

炭素繊維という「軽くて丈夫」な素材は、モビリティ分野だけでも大きな可能性を秘めています。いよいよ電気自動車が主流となった時代が到来したとき、今よりもさらに軽く、さらに丈夫なCFRPが開発されていけば、環境に優しい「空飛ぶ電気自動車」だって夢ではないかもしれません。

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