研究開発

研究開発は将来の成長エンジン

世界トップクラスの研究開発組織が、三菱ケミカルグループのイノベーションの中核といえます。専門知識の集積によって生み出される知的財産は、当社が保有する最も重要な資産の一つです。

業界をリードする世界的化学メーカーとして高い競争力を維持するために、事業への短期的なインパクトを得るための研究開発を行いながら、長期的成長を支える新たな柱づくりにも取り組んでいます。さらに、自社での研究開発に加え、政府機関やアカデミア、スタートアップ企業、企業パートナーと協力したオープンイノベーションも積極的に行い、市場投入までの期間を短縮していきます。

短期的事業インパクト創出を推進

超低誘電損失フィルム―“Beyond 5G”の実現へ貢献

次世代通信システムでは、特に高周波領域の誘電損失を減少させることが非常に重要です。当社は独自の材料設計技術と合成のノウハウを活かし、誘電正接※1を0.001以下まで抑える高い誘電特性を持った新種のフィルムを開発しました。このフィルムは従来品と比較して、ミリ波帯5G(28GHz)の伝送ロスを約50%低減します。また、透明性や耐熱性が高く、銅密着性に優れています。
※1 誘電体内での電気エネルギー損失の度合いを表す数値

「グリーンKTF」とバイオPTMG※2―バイオ由来の高機能製品でカーボンニュートラルを実現

透湿性フィルム製品「KTF」の需要増に対応し、製造過程でのCO2 排出量を30%削減するために、当社は「グリーンKTF」の販売を開始しました。「グリーンKTF」は、炭酸カルシウムや植物由来ポリエチレンなどを用いた天然由来の材料で、従来のKTFと同等の性能を有し、紙おむつのバックシートや高機能防護服などに使用されています。ポリウレタン樹脂やポリエステル樹脂の原料として使用されるPTMG製品についても同様のアプローチを取り、石油由来のPTMGと同等性能を持ちながらCO2排出量を大幅に削減したバイオPTMGを開発しました。
※2 ポリテトラメチレンエーテルグリコール

低温窒化技術の開発

ヒドラジンは金属窒化物薄膜の原子層堆積(ALD)用低温窒素源前駆体として、半導体産業で注目されている物質です。しかし、反応性が高いために安全な取り扱いが難しいという側面があるため、当社では、高純度ヒドラジンとそのバルク供給システムなどの先進的半導体窒化プロセス用に、低温窒化技術の開発に取り組んでいます。これにより、ALDプロセスのスループットと窒化物薄膜の品質向上を達成できます。

次世代の成長を担う柱の創出

プレシジョンメディシンに注力

当社は、中枢神経系や免疫炎症などの疾患の原因や表現型を考慮したプレシジョンメディシンの実現をめざします。プレシジョンメディシンとは、遺伝や環境、生活習慣など、個々の患者に合った疾病予防や治療を提供するものです。現在、赤芽球性プロトポルフィリン症や全身性硬化症を対象に開発中のMT-7117は、当社の代表的なプレシジョンメディシンプログラムです。
また、当社はデジタル技術を推進しています。例えば、アカデミアやAIベンチャー企業と協力し、創薬スクリーニングのためのAI技術の開発を進めています。この技術は、高度な技術を持った研究者がこれまで時間を掛けてデータ解析を行っていたものを、大規模な画像データを使うことによって、評価速度を加速させることができます。将来的には、ジェネリック医薬品と患者から採取したヒトiPS細胞を使用した創薬スクリーニングへの応用を想定しています。

再生医療用の植物由来成長因子

再生医療では、患者やドナーから採取した幹細胞を培養し、目的の組織や臓器に増殖・分化誘導する成長因子などの周辺材料が非常に重要です。当社は㈱マイオリッジと提携し、植物を使用した成長因子の生産研究に取り組んでいます。この提携は、当社グループのカナダの子会社Medicago, Inc.が最近開発している、世界初となる植物由来の新型コロナウイルスワクチンで実施したプロセスを活用したものです。従来の細胞培養方法で積年の課題となっている、主にウシ胎児から採取した血清の使用に起因する、「安定供給」「動物由来病原体混入リスクの低減」「動物倫理の確保」といった問題の解決をめざします。

窒化ガリウム(GaN)基板製造実証設備で4インチGaN結晶の成長を確認

当社と㈱日本製鋼所は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の支援を受け、共同でパワーエレクトロニクス用大口径バルク窒化ガリウム(GaN)基板の製造性向上に向けた研究に取り組んでいます。この共同研究では、低コスト製造技術を使用して高品質な4インチGaN基板の量産に向けた結晶成長試験を行い、計画通りに結晶が成長していることを確認しました。

政府機関やアカデミアとの外部パートナーシップ

ARPChem、三菱ガス化学㈱との人工光合成用光触媒技術開発

人工光合成は、CO2を原料にすることでカーボンニュートラル社会の実現をめざす画期的な技術です。当社はNEDOが展開するグリーンイノベーション基金事業のプロジェクトにおいて、ARPChem(人工光合成化学プロセス技術研究組合)と三菱ガス化学㈱と協力し、高い変換効率と水素製造コスト低減を可能にする光触媒の開発に取り組んでいます。また、アルコール経由の水素とCO2からエチレンやプロピレンなどの基礎化学品を高効率で製造する技術の開発も行っています。

カリフォルニア大学サンタバーバラ校と三菱ケミカル先端材料研究センターのコラボレーション

三菱ケミカル先端材料研究センター(MC-CAM)は、カリフォルニア大学サンタバーバラ校に所在地を置く材料研究センターです。2001年にスタートしたこのコラボレーションは、機能性軟質材料をターゲットとしており、これまでに180以上の論文を発表しています。例えば、固体電池用の固体高分子電解質(SPE)や有機光検出器(OPD)の材料で、MC-CAMは重要な前進を果たしています。MC-CAMは、当社グループの長期ビジョンを支える高付加価値な先進的機能材料の研究に、これからも注力していきます。

環境・社会課題解決に向けて

地球快適化インスティテュートにおける研究開発

地球快適化インスティテュート(TKI)は、長期的なトレンドとビジネスチャンスに注力する当社グループのシンクタンクとして、2009年に設立されました。TKIでは、学術的・科学的な専門家のグローバルなネットワークと連携して将来の市場ニーズを予測し、その需要を満たすコンセプト製品をプロトタイプ化しています。
例えば、パラリンピックで使用された高機能なスポーツ用義足ブレードの開発を牽引してきました。もう一つのコンセプト製品は、輸送や追跡に細心の取り扱いを要する品目向けに、IoTを使用した「ICT医療物流ボックス」です。現在は、グループ会社である三菱ケミカル物流が医療用医薬品流通市場における新たなビジネスモデルを模索するため、TKIコンセプトに基づいたポータブル版の開発を進めています。
TKIは、当社グループ全体のグローバルな将来シナリオに対する客観的かつ長期的な展望に基づき、新たなビジネスチャンスに結びつく取り組みに注力しています。

TKIが開発した高機能なスポーツ用義足ブレードのプロトタイプは、パラリンピック選手たちのトレーニングや世界大会での活躍を支えています。

Muse細胞を用いた再生医療等製品の開発

Muse細胞(Multi lineage-differentiating stress enduring cells)は、骨髄や末梢血、全身の結合組織に自然に存在する、生体に内在する多能性幹細胞です。Muse細胞は静脈注射が可能で、傷ついた臓器に自ら移動し、傷害組織に応じた細胞へと自発的に分化します。
当社グループでは、Muse細胞の特性を活かした再生医療製品の開発を進めています。非臨床研究の成果を受け、6種の適応症で臨床試験を実施してきました。現在は、脳梗塞を主要な適応症として注力しています。2021年度の探索的研究では、良好な安全性の特性を確認し、有効性の可能性が示唆されています。医薬品医療機器総合機構(PMDA)との協議を経て、本格的な承認取得をめざした作業を進めています。承認申請に向けて、今年度は検証的臨床試験を開始する予定です。

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